つくばマラソン

つくばマラソンは今年からウェーブスタートになった影響で、僕が入るBブロックは9:00スタートと、30分も早くなってしまった。90分前の7:30に現地入りするためには、始発電車に乗らなくてはならない。そして、困ったことに、そんな時刻にバスは走っていない。調べてみると、最寄駅の綱島から東急東横線に乗るよりも、新川崎まで行って横須賀線に乗った方が効率が良いことがわかり、新川崎まで3キロちょっとを歩くことにした。
 
ほとんど初めて歩くような道だったが、早朝(というか深夜の)住宅地や商店街を抜けて駅までたどり着く。普段から長距離を黙々と走っているせいか、40分近く歩いてもそれほど苦にはならなかったが、路地から急に車が出てくるとちょっと怖い。
 
秋葉原つくばエクスプレスに乗り換える。当然ながら同じレースに参加する多くのランナーが並んでいて、凄まじい椅子取りゲームになったが、運良く座ることができた。荷物で場所を確保しようという不届き者もいたが、丁重に(?)苦情を申し述べて荷物をどけていただいた。
 
これで研究学園駅までゆっくりしていけるかと思ったら、隣からギーギーと耳障りな音が聞こえてくる。見ると、おっさんが小型のペーパークリップを開いたり閉じたりしている。なぜ電車の中で必要もないペーパークリップを持っているのかと思って見ていると、髭を抜いていた。うるさいだけでなく、抜いた髭をその辺にポイと捨てるので、おっさんの黒い鞄の上には白い髭が何本も落ちて何だか不潔である。
 
迷惑なおっさんに耐えながら駅に到着。シャトルバスは例年通りの長蛇の列。何度も折り返しを過ぎて何とか乗り込み、ようやく現地入り。
 
ウェーブスタートにしたおかげか、荷物預り所もスタート地点も混まず(男子トイレだけは混んでいた)、スムーズに整列。今年のゲストランナーは野々村真さん。アナウンスによれば3分57秒45のタイムをお持ちだとか。毎年つくばマラソンのアナウンスは場を和ませるサービスに事欠かない。野々村真さんは挨拶で訂正することもなく、皆さん頑張りましょうと普通にスピーチしていた。この辺はさすがプロですね。
 
今年は、距離も踏んで、体重も落としているにも関わらず、とにかくスピードが出せない。そんな中で自己ベストの3時間8分を目指そうとすれば失速するのは目に見えているので、目標タイムは3時間15分に設定した。最初の10キロを4’50”ペース、次の10キロを4’40”ペース、20キロから4’30”にすればほぼ目標通りのタイムになる。
 
スタートは混み合うこともなくスムーズ。最初の1キロは4’55”。ちょっと遅いけどなかなかのペース。M高史さんが近くを走っていた。顔は確かに川内優輝選手に似ているが、髪の毛が伸びすぎている。話しかけてみた。何箇所かのポイントで中継するのが今回の仕事なのだそうだ。それでも最後まで走らないといけないですけど、とのこと。5キロ地点くらいまでは、ちょうどペースが一緒だったのでずっとM高史さんを見ながら走る。やっぱり有名人は応援がすごい。
 
ランニングクラブの女性メンバーが応援してくれる。ハイタッチをして頑張ります宣言をし、元気をもらう。その後も知り合いの女性メンバーを見つけるも声をかけそびれる。その後は4’46”、4’49”と予定通りのペースで落ち着く。3kmから4km地点の1キロは4’28”。ペースが上がってしまったので落ち着ける。
 
その後も無意識のうちにちょっとずつペースが上がってしまう。前に、「大島めぐみ」というゼッケンを発見。大島さんはアテネオリンピックを目指すも、わずか数秒の差で代表の座を逃してしまったという経歴を持つ。それでも10000mで代表選手になるなど、ただでは転ばないというか、目標に向かって気持ちをさっと切り替えられる力があるのだろう。
 
現役時代の体型は失礼ながら知らないのだけど、現在は少しふっくらされている。それでも、キロ4分40秒くらいで全く息を切らさず走れるのだから元アスリートというのはすごい。
 
するすると近づいて声をかける。大島さんは4時間くらいで走ろうとしているそうで、僕の目標は3時間15分なんですと伝えると、ちょっと急いだ方がいいかも、との返事。それでも、今日は走りやすいでか?とか色々と話してくれて、かなり長いこと話してしまった。
 
おかげで、ペースは若干落ちて4’44”。大島さんには迷惑だったかもしれないけれど、しばらくレースを忘れることができた。長距離を走る場合には、時には気晴らしも必要だと思う。10kmの通過は47’04”。予定よりも1分以上速い。良くないことなのだけど、走っていると、1分も貯金ができたと喜んでしまう。
 
10kmからペースを上げて4’40”へ。20kmまで全区間で4’30”台と安定していたけれど、やはりちょっと速めである。それでも今日は調子がいいと勘違いしてしまう。しかし、楽なペースを維持していると、早めの給食を摂る余裕が出てくる。あんぱんや、持参した羊羹を食べて後半に備える。
 
今年からつくばマラソンはコースが一新された。去年までは中間で折り返した後は、全く同じコースをただ帰ってくるという、平坦だけどちょっと単調なコースだった。今年は、それがワンウェイで大きな円を左回りにぐるりと廻るコースになった。
 
つくばマラソンのコースの魅力は、遠くに見える筑波山と銀杏並木だろう。銀杏はちょうど紅葉の時期で、走りながらも心を打たれる。数多くの企業や国の研究所が並ぶが、どこも敷地が広々としている。平日はそれなりに賑わうのだろうけど、日曜の朝はどこも閑散としている。散歩やジョギングには楽しそうだ。
 
1周ぐるりと廻るので、基本的に左折が多い。何度も何度も左に曲がっているうちに、方向感覚がなくなってしまい、同じところをぐるぐる回っているのかと錯覚してしまう。
 
景色だけでなく、時々周りのランナーを観察する。フォームが縮こまったランナーを見つけることもある。自分もかつてはそんな走りだった、今の自分はどうだろうと考える。腕を振ってストライドを上げるようにする。
 
なんてことを考えているうちに、いつの間にか20km地点。5kmごとのタイムは22分台後半だった。20kmの通過は1時間32分台で予定より2分速い。これなら3時間12分台も可能で、もしかしてセカンドベストもあり得る、と妄想も膨らむ。もちろん、この妄想は30km地点で打ち砕かれることになる。
 
20kmで二度目のギアチェンジ。4’30"ペースに上げる。きつくはないが、少し押していかないといけないくらいのスピード。先日の練習会ではこのペースで20km走って余裕があったので、同じくらいの距離は行けるだろうと思っていた。
 
R2の女子ランナーが走っている。背中に名前、ニックネームが書かれていて、「ニックネームで呼んでね」なんて書いてあるもんだから、よほど声をかけようかと思ったのだけど、誰も話しかけていなかったので、やめておいた。それでも、この辺りは大集団になっていた。話しかけられないけれど一緒に走りたい人はたくさんいるのだろう。
 
28km地点の給水所でバナナを取る。食べてみると、リンゴのようなしゃりしゃりとした食感。全然熟れてないでないの。ちょっとはサンプリングして食べてみなかったのかと、毒づきたくもなるが、あいにくそんな相手はいない。とりあえず手に持っていたバナナは捨てさせてもらう。問題は口の中に突っ込んだ分だ。ぺっと吐くのも汚いので、水で胃に流し込んだ。
 
その先で折り返し。ちょうどカメラが待ち構えていたので、カッコつけようとガッツポーズしながら、体を横に倒してスピードを落とさずに曲がろうとした。その瞬間足の裏が攣った。足の先がまっすぐ前に向かないまま固まってしまった。丁寧にスピードを落として回ればよかったと思うけど、時すでに遅し。一つ目の芍薬甘草湯と投入。500mも走らないうちに痛みが引いていく。薬の力は大したものだ。
 
でも、折り返しの後は緩やかな登りということもあり、30km地点でのラップが4’49”に落ちていることを知る。急に遅れを取り戻そうとすると往々にして失敗するので、徐々ペースを取り戻そうとする。3キロほどは粘ったけれど、33kmを過ぎるとずるずるとペースが落ちてしまった。
 
最初ゆっくりとスタートしたので、ずっと他のランナーに抜かれることはなかった(何かの間違いで第二ウェーブに入ってしまった人は除けば、ということだけど)けれど、この辺りから抜かれることも多くなった。ペースは4分40秒台の後半まで落ちてしまった。35km過ぎて、ハムストリングがピクピク痙攣を始めたので、二つ目の芍薬甘草湯を飲む。残りの芍薬甘草湯は一つ。これはゴールした後に飲む予定のものだ。
 
38kmで筑波大学構内に戻る。39kmを過ぎて再び痙攣が始まる。これまでと同じ走り方をしていたら間違いなく攣るという予感がある。ピッチ走法に切り替える。さらにペースを落とす。ついにキロ5分台まで落ちる。虎の子の芍薬甘草湯を飲むことにする。もののけ姫のモロの君のように、最後まで温存しておいたものだ。やれやれ、ゴール後のために残しておいた最後の薬なのに。
 
もう、ゴール後にどうなってもいいので、薬を飲む。次の1キロは5’08”。さらに遅くなる。が、薬も効いてくる。さらに、ランニングクラブの女性メンバー二人に声をかけてもらい、最後の力をもらう。次の1キロは4’40”と回復。左に折れると競技場に入り、ゴールが見える。
 
ここで頑張りすぎるとまた攣ってしまうので、慎重に攻める。目の前のランナーを左から抜きにかかる。と、このランナー、カメラに写るために左に曲がって邪魔をしてくる。競馬で言えば斜行で失格レベルに迫ってくる。すごく邪魔だ。完全に遠回りしないとゴールに行けない。抜き去ろうとすると、急に意識してペースを上げてきやがった。すごく腹が立つが抜き返せず。そのままゴール。
 
悔しいが、最後にあそこまでペースが落ちなければそんな目に遭うこともなかったと、自分が悪かったと思う。圧倒的なスピードで抜き返す力もなかった。この悔しさは次に活かさないといけない。
 
タイムはネットで3:15’38”。目標には40秒ほど届かなかった。39km地点で諦めてしまった。5kmごとのラップは途中までは順調に上がっていったけど、その後は落ちてしまい逆V字になってしまった。4’30”ペースで20キロ走るはずが、たったの9キロしか保たなかった。せっかくダイエットしたのに、最後の最後にリバウンドしてしまった。
 
ランナーとしても人間としてもまだまだ未熟だけれど、自分で自分を褒めてあげたい。
 
4’55” 4’46” 4’49” 4’28” 4’48” (5km 23’47”)
4’42” 4’39” 4’37” 4’44” 4’36” (10km 47’04” 23’17”)
4’33” 4’36” 4’34” 4’31” 4’38” (15km 1:09’57” 22’53”)
4’34” 4’35” 4’33” 4’31” 4’35” (20km 1:32’45” 22’48”)
4’24” 4’29” 4’27” 4’26” 4’30” (25km 1:55’01” 22’16”)
4’22” 4’29” 8’55” 4’49”          (30km 2:17’35” 22’34”)
4’33” 4’36” 4’33” 4’45” 4’47” (35km 2:40’50” 23’15”)
4’48” 4’48” 4’47” 4’44” 5’02” (40km 3:04’59” 24’09”)
5’08” 4’40” 0’51” (42.195km 3’15’38” 10’39")
前半1:37’36” 後半 1:38’02"